サークル猫屋のblogにようこそ♪
こちらは2008年6月よりDLサイトなどにて同人作品を販売している『猫屋』のBlogです。
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暑い日が続きます。
猫屋の雑猫です。 本日は文芸社からの電話にたたき起こされました。 そういえば、図書カードが全プレだから「月守の姫」を送ったっけ。 (販売停止しています) 寝惚けていたのと、担当の見下したような言葉に (原稿が届いているというお知らせで、なに、その態度!) 暑さも手伝ってイライラしてしちまったよ・・・。 切り替えます! ![]() ![]() DLありがとうございます! 追いつけ、追い越せの【実妹~】 【お嬢様~】に、ピタと付いていっております。 つづきに売るほどじゃない一般向けを書きますv それは丁寧に可愛らしい柄の風呂敷に包まれた小さな箱であった。 「誰かが預かったの?」 「いいえ、私が帰ってきたら既にありました」 まだ夜も明けぬ早朝と深夜の境界の時間帯に、ほんの少しの間、無人になったナースステーションに置き去りにされていたのだ。 「封筒が挟まってる」 「あら、この宛名は入院されている患者さんにいたじゃない」 「ああ、あの大企業の社長さんだ」 裏返してみても何も書かれていない。 ただ、表に有名な会社の社長だという入院患者の氏名が印字されている。 忙しさもあって、その時の看護士たちは深く考えはしなかった。 何しろ大企業の社長である。 面会できる時間も、相手も限られてしまう。 それでも、見舞いに来る人物はいるだろう。 通常の面会時間に病院に来れない事情があったのかもしれない。 それぞれが、そんな風に勝手に解釈を下し納得した。 そうして、その包みは患者のもとに届けられたのだ。 毎朝の検温と点滴を受けながら、その男は看護士が届けてきた包みから封書を抜き出してみる。 素っ気無い有り触れたフォント文字を使った宛名だけが読み取れる。 中を開けてみれば、これまた同じフォント文字で短い手紙が入っていた。 『素人が手慰みに作った人形です。勝田様のご病気を想い恥ずかしながら贈らせていただきました』 それを見て、こっそりと届けられていたという見舞いの品に疑問は抱かなかった。 勝田という男は、人形を作る玩具メーカーの社長なのだ。 その人形たちは全国に熱狂的なファンを持ち、新作を出すたびに長蛇の列ができる。 そうして並んで待っても買えなかった者たちは何とか手に入れようと苦心する。 だから、勝田は不思議とも思わなかった。 自分の会社の人形愛好者が贈って来たのだろうと想像したのだ。 勝田は現在、悪性の腫瘍にとりつかれた病身を特に自愛する事も無く仕事を続けている。 本来は面会謝絶のはずの状態だというのに、常に数人の社員がつめているくらいだ。 そういう状態だから、社長に届けられた見舞いの品は社員の手によって封を開けられた。 「こ……これはっ」 「なんですか、騒々しい」 「いや、だって……こんなもの!」 社員同士が小さな箱の中を除き見て眉を潜める。 すでに朝の会議に使う書類の見直しをしていた勝田は呆れて声をかけた。 「どんな粗末なものでも人形なのだろう?」 「社長、粗末といえば粗末ですが……これは……」 社員が箱の中が見えるように差し出してくる。 中には小さな箱にピッタリと収まった藁で出来たヒトガタが入っていた。 「ただの藁で出来た人形じゃあないか」 「社長、これは嫌がらせと思うべきではありませんか?」 「ああ……それが殺菌されていないとマズイな。抵抗力が落ちているのだから」 勝田の興味はそこまでだった。 社員たちはライバル会社からの嫌がらせだと主張したが、現在は新作へ向けての商戦を会議している最中である。 それこそ、ただ藁で出来たヒトガタの物を相手に騒ぐ暇は無かった。 勝田は、ほどほどには治療を受けなければ仕事が出来ないから入院しているのだ。 つまり、そこまで悪性の腫瘍が身体を蝕んでいるにもかかわらず仕事は放棄しない。 身体を休めるというには程遠い入院であった。 「また……ですか?」 「すみません。どうしてもナースコールが鳴ったりして無人になるときがあるので」 翌朝、同じ大きさの箱が同じ柄の風呂敷に包まれて病室にやってきた。 昨日と全く同じ封書も付いている。 昨日の箱を開けた社員は、そのときのことを思い出して唇を噛んだ。 「あの……こちらへのお見舞いの品ではないのでしょうか」 「箱ごと消毒してくださっているのなら置いていってください」 「はい、勝田さんの病室に入るものは全て滅菌消毒してありますよ」 勝田自身が受け取るという意思表示をしたので、看護士は気にせずに箱を置いていく。 開けるまでも無いと思いながらも、勝田は封書を開け、箱をあけてみた。 病気のせいで体力が落ちた勝田でも容易に箱は開けられた。 軽い、薄い紙の箱。 そこに鎮座する藁で出来たヒトガタ。 『私の想いの一つがお目通り叶って嬉しく思います。どうか二つ目も見ていただけますように』 素っ気無いフォント文字からは悪意も、善意も感じられなかった。 ただ、文面から勝田に藁人形を見てもらいたいのだという事は解る。 勝田の病気の進行は、こんな人形で遅くなったり早くなったりするものではない。 医師の治療を受けていれば、いいだけのことだ。 だから、勝田は送り主のことを探ろうとも思わず、送られてくるものを拒否しなかった。 部屋に入る前に病院側は、厳重に滅菌しているのだという。 ならば、特別に気にする必要など無い。 毎朝、看護士が困った顔で言い訳をしながら届ける小さな包み。 病室の社員たちは困惑しているが、贈られた勝田本人は受け取るという意思表示をし続ける。 「もう六つ目ですよ?病院のセキュリティは大丈夫なんですか」 「はい、防犯カメラも設置していますし警備員も巡回しています」 「では、目撃した人がいるでしょう?」 「残念ながら今のところ、それらしき人は……」 六日目にして看護士に問い詰めてみた社員は訊かなければ良かったと思った。 警備された環境に誰も姿をみていないという毎朝の贈り物の贈り主。 それでなくても気味が悪いのに、話は怪談染みている。 「非効率なことは考えず、この書類を読み上げてくれ」 紙の束を持つことが出来ない勝田は、会議の経過を纏めた書類を読み上げる事を優先した。 社員が社長である勝田のいうことをきいて書類を読み上げ始める。 その間に届いた小さな包みを開けて、封書を読む。 『あなたの作るヒトガタは伽藍堂。私の想いは届くでしょうか』 勝田の販売している人形は構造上、中はほぼ空洞になっている。 それを、がらんどうだというのだろうか? 確かに藁人形は、藁を束ねているのだから中まで藁が詰まっているはずだ。 だが、それは皮肉というほどのものでもない。 事実であり、些細な話だ。 いくらの値打ちも無い藁の人形。 長蛇の列を人々が作り、何十万という定価を気にもしないで買い漁る人々が実在する勝田の販売する人形。 そもそも比べようの無いもの同士である。 『七つ、私は穴を掘る』 七日目にして、七つ目の箱に添えられた手紙は今までの中でも最も短かった。 箱の中の藁のヒトガタは、七つ目にして『成就祈願』という文字を抱いてきた。 正確には胸に縫い付けられて届けられたのだ。 白い布に拙い筆文字。 初めて見た送り主の肉筆にも、勝田は希薄な感情しか覚える事は無かった。 曖昧な言葉ばかりで、何を伝えたいのかが解らないのだ。 勝田の今度の商戦も、今まで通り人形に名前を付けキャラクター性を付加し魅力を印象付ける。 どういう性格で、どういう物語があるのかという夢を広告に付属させる。 そうすることで、無機質なはずの人形は人に夢を与える存在となるのだ。 だから大勢の人が買いたいという気持ちになるのだ。 この送り主のように解りにくい言葉では商売にならない。 誰でもわかる言葉で魅力を打ち出さなければいけないと勝田は信じている。 「社長、これは……」 「ああ、今まで通りに窓の傍にでも積んでおいてくれたら……」 広い個室の窓の傍に小さな箱が六つ積まれていた。 その方向に視線を向けた勝田の見たものに言葉が途切れる。 「社長?」 「窓の外……下だ。人を呼べ」 勝田の顔色は悪かった。 具合が悪くなったのだと判断した社員はナースコールを押す。 「私じゃない……下、下を見てみろ」 勝田らしくない震える声に社員は不安を覚えながらも言われたとおりに窓の下を、窓ガラス越しに下にある病院の職員用の駐車場を見下ろした。 そこには、真っ赤な染みが見えている。 地上十二階の勝田の部屋から地面は遠い。 それでも、それがグニャリと曲がった人間だろうということくらいの察しは付いた。 「上から……落ちていくのが見えたんだ……」 勝田は独白する。 結局、その日は散々な日になった。 勝田が見たというのは間違い無いようで、ほぼ真上に当たる位置の屋上から飛び降りたらしい。 警察がやってきて、医師の立会いのもとに勝田は遺留品だというものを見せられた。 『勝田社長様へ』 見慣れてしまった素っ気無いフォント文字の封書。 しかし共に届いた箱は大きく、重く……色あせていたが見慣れたものだった。 それは、勝田の販売する人形が販売されるときに入っている箱と寸分違わない。 中から警官が取り出してきたのは、色が変色した古い人形。 もう製造をやめてしまった勝田が過去に販売していた人形であった。 色あせた箱、変色した人形、けれど衣装は作られて間もないのだろう。 真新しい白いレースの付いたドレスと帽子を付けて微笑んでいる。 『八つ、私は此処に居る』 軽い、白い紙切れが手から滑り落ちた。 医師が駆け寄る。 警官たちも、社員たちも追い出されて病室は、慌しく病室らしさを取り戻す。 勝田は、その時の治療が功をなしたのか命だけはつなぎとめられた。 しかし以前のように病室で仕事をすることも出来ず、看護士が時々来るだけだ。 急に重くなった身体を横たえたまま、勝田は視線だけを窓際に向ける。 七つの小さな箱と一つの大きな箱が置き去りにされたまま、その中のヒトガタを愛でるものなど誰もいない。 PR |
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